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「人皆(ひとみな)炎熱(えんねつ)をいと厭うも、吾は夏日の長きことを楽しむ。薫風(くんぷう)南より来りて、殿閣(でんかく)微涼(びりょう)を生ず」
 
 今年の夏はあったような。なかったような。梅雨も明けたような。明けぬような。さらに県内では地震も重なり、ままならぬ自然の営みに、人間の手の無力さを感じる夏でありました。

 しかし冷夏で毎日太陽を心待ちにしていたはずなのに暑くなればなったで、あれこれと不平を言うのが人間の愚かしさであります。表題の詩は中国が唐と呼ばれた時代のものです。文宗皇帝(ぶんそうこうてい)が「人は夏の暑さに苦しんでいるが、自分は逆にその夏の日の長さというものを楽しんでいる。」と詠んだのに対し、柳公権(りゅうこうけん)という人が「さわやかな風が南から吹き来たり、宮殿にかすかな涼しさが生じる。」と詠み合わせたものです。文宗皇帝の「人が嫌がる暑い夏を私は楽しんでいますよ。」という境涯も我々凡人に比せば、なかなかのものですが、未だ屁理屈の範疇(はんちゅう)を抜け出でていないようです。それに対し柳公権の下の句は「さわやかな風が吹いて、殿閣がすぅーと涼しくなった。」と夏の日の心地よさを素直に詠みあげています。

 円悟(えんご)禅師という方は「仏の出身は?」はという禅問答に対し、この「薫風南より来たりて、殿閣微涼を生ず。」をもって答えています。仏の出どころは何の計らいもない無心のところにあるのだというのでしょう。

 さて今日も子供たちは、寺の境内よりもずっと日当たりの良い園庭で汗と砂にまみれて遊んでいます。柳公権や円悟禅師も真っ青!まさに無心であります。暑さ寒さも無心で望めば造作無しと教えられつつも、保護者各位の洗濯の労を思うと……
 
塩釜中央幼稚園  園長 千坂成也
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