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禅定静寂(ぜんじょうせいじゃく)
 
 「一鳥鳴いて山更に幽なり」

 茶道裏千家の今日庵の初釜には毎年多くの関係者が招かれお家元のお手前を頂きます。私も縁あって毎年伺っていますが、今から十数年前に最初に招かれた際には作法に疎いこともあり大変窮屈に感じた茶席も、年をとったせいか最近は大変落ち着ける場であると感じられるようになりました。中でも蛍光灯などの現代的照明が無い薄暗い待合で、松風の声と譬えられる「ちんちん」と湯の沸く釜の音だけを聞く風情は、日常生活では感じることのない趣あるものであります。

 昔から芭蕉に代表されるように、中国人や日本人は音で静かさを表現することが得意です。表題の「一鳥鳴いて山更に幽なり」も鳥が一声鳴いたという言葉で、更なる静けさを表現したものであります。物理的に見れば鳥の声が無い方が、静かに決まっています。しかし物音一つしない山間で鳥が一声鳴いたとすることで、私たちは、音という感覚を超えた幽玄な静けさを感じることが出来るのです。このような繊細な感覚というものは、精密な機械の分野や、様々な商品の品質の安定というものに生かされており、日本経済が飛躍的に向上した基礎となったものだと思います。残念乍ら近年はこういった日本人特有の素晴らしい感覚が失われつつありますが。

 近年は「癒しブーム」などと言われ東洋的な家具や香りなどが珍重されました。テレビなどのメディアの表現が刺激的になる一方で、前述のような全く性格を事とするものが流行るのですから、世の中は面白いものです。これは、ある意味人間の自己防衛本能が機能したためのブームではないでしょうか。子供たちが目にするテレビのアニメやゲームも私たちが子供の頃に比べれば、格段に進歩して臨場感あふれるものになっています。しかしそれだけ大きな刺激が子供たちに与えられているということを、親は自覚しなくてはなりません。テレビやゲームも子供の想像力と創造力を成長させる上で役立つものかもしれませんが、ものには限度があります。幼稚園では坐禅や茶道を通じて、静寂な時間を体験していますが、これだけでは充分ではありません。子供たちの健やかな心の成長のために、家庭で意識的に静かな時間を作ってあげることが、音であふれる現代社会では親の大切な義務であると思います。
 
塩釜中央幼稚園  園長 千坂成也
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