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おさなご 12月号 平成20年12月更新

鎌倉建長寺から京都妙心寺までの行脚

 

妙心寺の開山関山慧玄(無相大師)は鎌倉建長寺派の僧侶でした。関山様は建長寺の開山蘭渓道隆禅師五〇年忌の前の晩の法要の際、京都大徳寺の宗峰妙超禅師(大燈国師)が当時もっとも厳しい禅僧であるという事を耳にし、どうしても大燈国師に参じてみたいという衝動から、鎌倉建長寺を後にし、一目算に京へ上ったといいます。

今回、私が参加した鎌倉から京都までの行脚はこの逸話に基づいて計画されたものです。

鎌倉建長寺から京都妙心寺までの歩行距離は地図サイトの上では460q、実際は500q以上の道のりでありましたが、やはり実際に歩いてみると生半可な距離ではありませんでした。特に最初の三日間は、歩きなれぬ肉体的苦痛、そして残りの日数を考えた時の精神的な重圧感で、非常に一日が長く感じられたものです。また一日目は30km弱の歩行距離でしたが、六名の参加者の殆ど全員の足にマメが出来、本山から預けられた救急箱の周りに皆が集まるという惨状!
「六名全員の内、何人が京都にたどり着けるだろうか?」という不安が脳裏を過りました。この行脚の実行委員会で委員の一人が「もし誰も本山に到着出来なかったらどうするのですか?」という質問を受けた記憶が甦ります。「これは大変なことを始めてしまったものだ。」というのが偽ざる心境でした。
それでも京都まで無事に六名全員がたどり着けたのは、参加者それぞれの精進であるとともに、お世話を頂いた臨済宗妙心寺派東京教区から京阪教区までの六ブロックの寺院の皆さんや檀家の皆さんのご厚情の賜物であると思います。また個人的には寺や幼稚園を守ってくれた教職員や寺族、そして丈夫な身体に生んでくれた両親に感謝であります。
無相大師には、夢中で京都に上った為に、途中の富士山に気付かなかったという逸話があり、道中で僧侶方に富士山は見えたか?と冗談半分に聞かれることが多かったのですが、当然この美しい山に気付かないわけなど無く、私は決まって次のように答えていました。「富士山には毎日励まされています。富士山だけではなく、街道の松の木も、青い海も皆自分を応援してくれているような気がします。」と。二九日間の行脚を経て、京都大本山妙心寺に到着した際には、五〇〇名程の僧侶や信者の方々に迎えて頂きました。本当に妙心寺という慣れ親しんだ本山が、温かくまるで自分の実家のように感じられた瞬間です。今回の行脚を通じて学んだことは、万物への感謝であります。当然、頭では理解していたことではありますが、自分の脚で歩み、風に触れ、アスファルトの隙間に根を下ろした雑草や道端のお地蔵さんに励まされる日々は稀有なるものでありました。そんなに素晴らしいならまたどうぞ!と言われたら、丁重に断りますが…。

園長 千坂成也 合掌
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