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おさなご 5月号 平成22年6月更新

園だより

 

「いただきます」

 当然のことですが、幼稚園では給食を頂戴する前に手を合わせ「いただきます。」と言って箸を付けます。

 「いただきます。」素晴らしい言葉です。それでは日本人は何に向かって合掌し、何に対して頂きますと言うのでしょうか?

 禅宗の修行道場で唱えられる『食事五観文』というものがあります。意味を要約すると次の通りです。

一、この食事がここに運ばれて来るまでの、人々のご苦労に感謝します。
二、自分自身がこの有り難い食事を頂くのに相応しい行いをしているかどうかを反省します。
三、お食事を頂くのに、「もっと欲しい」とか「もっと美味しいものが食べたい」等という貪りを捨てます。
四、この食事は私達の肉体を維持し、健康を保つ為に頂きます。
五、この食事を頂き、必ずや修行を完成させます。

 この言葉は唐の時代の僧侶である南山さんという方が作ったものだそうで、何百年経過しても色あせぬ言葉であります。しかし、「いただきます」という言葉、これら五つの教えも網羅しつつ、さらに深い言葉であると私は思います。

 「いただきます」は「頂戴する」を簡略化した言葉で、この頂戴はお経に由来するものです。経典では何を頂戴するのかと言えば、五体投地してお釈迦様の御足を頂戴するのです。即ち仏に対し最も心からなる尊意を表す動作が頂戴であります。

 このような、元来の意味を考えると「いただきます」とは実に重い言葉であることが理解出来ます。五観文では食べ物を仏とまでは言っていません。我々日本人は前述の五観文の内容をさらに発展させて、食物そのものを仏であるかの如く手を合わせ、これを「喰う」のではなく「頂戴」するのです。

  日本人は無宗教であると言われます。確かに人々の生活が激変した戦後は、宗教や地域性からの乖離という面を進歩と見做していた風潮が少なからずあったかとも思います。しかし一方、日本人の宗教性というものは生活の中に混在し、無意識の中で私達の生活の中には宗教文化が生きているとも考えられるのです。この最たるものは「いただきます」です。この言葉の意味を心から理解し、まごころから言葉に出来たならば、八万四千の経典に匹敵する幸福を私達に与えてくれるものと信じます。

園長 千坂成也
 
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