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法螺貝 住職の法話

平成二十二年五月発行

『日本の宝とは?』

本堂の内陣両脇に飾られている屏風は瑞巌寺一二四世鄧州全忠(とうしゅう ぜんちゅう)老師の書。鄧州全忠という僧名よりも南天棒という名前で世に知られるお方です。豪放磊落な家風というイメージの禅僧ですが瑞巌寺での逸話を仄聞すると綿密な一面も有していたようです。なんでも、南天棒老師時代に整えられた備品台帳には箒やチリトリの類まで記載されているとか。また書画の真贋を極め、修繕の必要なものは適切な表装を施したと言います。さて、南天棒老師は乃木大将と交流があり、漢詩に長けた乃木大将の作品を写した墨蹟を多数残しています。本堂の屏風がまさにこれ。



「皇師百万強虜を征す 野戦攻城屍山を作す 愧ず我何の顔ありて父老に看みえん 凱歌今日幾人か還る」

 二百三高地の激戦を勝利した乃木大将であったが、多大な犠牲者の家族を想う乃木の姿は、敗軍の将の如きであったと言いますが、この詩はその自責の念を率直に詠んだものと言えるでしょう。



「中天富嶽千秋の雪 東海青波に旭影浮く 説くことを休めよ區々たる風物の美 地靈人傑此れ神州」

 これは富士山を詠んだ作品です。天に聳え東海の水面に秀麗な姿を映す富士山よりも、大地の縁と傑出した人こそがこの国の宝であることを詠っています。

 乃木大将に関しては、その人気を利用され、軍国主義の象徴となされたこともあって、散々な評価をされる場合も少なく無いようですが、少なくともこれらの漢詩には、現今の政治家には無い自己反省と純粋な精神性が詠み込まれていると小衲は感じるのです。何やら日本全体に自信喪失の感が溢れる日本ですが、今一度、本邦の宝は人であるということを自覚し、それぞれの立場で精進したいものです。

 
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