古梁紹岷「豈弟君子求福不回」
南山の名で知られる古梁紹岷禅師の二行書。「豈弟君子求福不回」とは『詩経』の「大雅・文王之什」にある「旱麓」という詩にみられる語句です。墨跡では古くから伝わる詩の一句のみを書き出して、禅僧の境涯を表現します。
ここでは詩の最終句を書き出したのでありますが、「莫莫たる葛藟(かつるい)、條枚(じょうまい)に施(は)えり。豈弟の君子、福を求めて回(たが)わず。」は「葛(くず)や藟(つた)など植物が樹の枝や幹にまとい付くように君子には常に福徳が自然に備わるので、自ら福を求めて道に違うことはない。」という意味。
「人間には元来仏性が具わっているので、外に向かってこれを求むるべきではない。」という禅の教えを踏まえつつ、味わいたい語句です。参考までに「旱麓」の全文を下記に載せます。
かの旱麓(かんろく)を瞻(み)れば、榛楛(しんこ)濟濟(せいせい)たり。
豈弟(がいてい)の君子、祿を干(もと)むる豈弟。
瑟(しつ)たるかの玉瓚(ぎょくさん)は、黃流(こうりゅう)中にあり。
豈弟の君子、福祿の降る攸(ところ)。
鳶(とび)飛んで天に戾(いた)り、魚(うお)淵に躍る。
豈弟の君子、遐(なん)ぞ人を作(おこ)さざらんや。
清酒既に載せ、騂牡(せいぼ)既に備る。
以て享し以て祀し、以て景福を介(おおい)にす。
瑟(しつ)たるかの柞棫(さくよく)は、民の燎(た)く所。
豈弟の君子は、神(しん)の勞(ろう)する所。
莫莫たる葛藟(かつるい)、條枚(じょうまい)に施(は)えり。
豈弟の君子、福を求めて回(たが)わず。