雲居希膺禅師「法語 為君實難為臣不易云々」
君為(た)るは實に難し、臣為るは易からず。
明君賢臣、豈に安佚を求めんや。
仁に非ざれば行こと莫かれ、忠に非ざれば言こと莫かれ。
義に非ざれば冨むこと莫かれ、礼に非ざれば樂しむこと莫かれ。
居は安きを思うこと莫かれ、食は飽くを求むること莫かれ。
内には色に荒(おぼ)るること莫かれ、外には禽に荒るること莫れ。
酒は是れ狂藥、強いて客に勧むること莫かれ。
肉は是れ悪毒、飽くまで人に飡らわしむること莫かれ。
思善思悪、地獄天堂。
正見正邪、魔界仏界。
僧俗男女の相を論ぜず、
貴賤老少の業を揀(えら)ばず。
自心邪険なれば佛も是れ衆生。
自性平等なれば衆生も是れ佛。
少年に能く業に勤むれば、老年は必ず安樂なり。
現世に能く善を修むれば、来世は必ず安樂なり。
把不住軒主
希膺(花押)
瑞巌寺中興開山雲居希膺禅師による法語。
雲居禅師の法語によく見られる仏教の因果応報や唯心思想と儒教的な仁義を説く内容となっています。
「酒は是れ狂藥、強いて客に勧むること莫かれ。肉は是れ悪毒、飽くまで人に飡らわしむること莫かれ。」と飲酒や肉食に言及しているのが興味深く、内容から見て在家信者に向けた法語だと思われます。
仏教では釈尊以来在家信者にも飲酒を禁じ、肉食に関しては保守的な仏教では条件の整った肉であれば食しても構わないとされるものの、大乗仏教では不殺生戒の一環として、固くこれを禁じており、江戸期までの日本は仏教の影響であまり肉食が普及しなかったと一般には言われます。しかし、一方では滋養強壮の薬として肉を食べる習慣はあったようで、この法語は江戸初期の肉食文化を伝える貴重な資料であるとも考えることが出来ます。
雲居禅師の教える「酒は強いて客に勧めてはいけない」「満腹になるまで人に食べさせてはいけない」と非常に緩やか訓戒であり、禅師が信者に向けてガチガチの仏教主義ではなく、現実的に守りやすい生活規範を勧めていたことがわかります。
ちなみに雲居禅師自身が酒を嗜んだことは年譜からも伺え、自らの眼病や下痢を酒で治したことが伝えられます。