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法螺貝 住職の法話

平成十七年七月八日発行

『 定(じょう) 』

 仏道修行の3本柱を、戒(かい)、定(じょう)、慧(え)の三学と言います。戒はいうまでも無く戒律を守ること、定は坐禅のこと、慧は戒や定により自我の束縛から解放され、仏様の智慧があらわになることであります。

 いま定とは坐禅のことであるといいましたが、中国で禅宗が発展して以来、「行もまた禅 坐もまた禅」などという言葉に代表させるように一心不乱に労働に打ち込むことも禅(定)であると考えられるようになりました。

 明治の禅僧釈宗演老師はある会合の後、寺へ帰ろうと車を頼みました。車といっても明治のことです。タクシーなどではありません。人力車であります。その人力車の車夫が、誰に入れ知恵されたのかはわかりませんが、老師が車に乗ろうとすると、「老師!仏様の教えには言葉にも出来ない深い真実があるそうですが、それを是非私にお示しください!」と仕掛けたのです。すると宗演老師「ようし!教えてしんぜよう!それではお前この車に乗りなさい。」言われるままに車に車夫が座ると、宗演老師、なんと車を引き始めました。円覚寺の管長様が車を引き車夫が座席に座るという世にも奇妙な姿です。如何に老師といえども車を引くのが上手なわけがありません。しかし宗演老師わき目もふらずに全力疾走であります。車夫はたまったものではありません。「老師申し訳御座いません。お許しください。」「お主言葉にも出来ん真実がわかったか!」老師が身を持って車夫に示した真実、皆さんにはわかりましたか?

 
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