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法螺貝 住職の法話

平成二十七年四月発行

「無憂樹(むうじゅ)」

 四月八日は降誕会。お釈迦様の誕生日であると日本の仏教では信じられています。
 ネパールとインドの国境付近に存在した釈迦族カピラ城主スッドダーナ王と妃マーヤ様はなかなか子宝に恵まれませんでした。ある時、マーヤ様は六本牙の白象が右脇から母胎に入るのを夢に見ました。これはブッダが入胎された証です。十ヶ月後、マーヤ様はお産の為に実家へと帰る道すがら、ルンビニーの園で花盛りの無憂樹の枝を右手でつかんだ時に、ブッダは右脇からこの世に誕生したのでした。
 産まれたばかりのブッダが四方をじっと見つめ、それぞれの方角に七歩進まれ、片手は天を指さし、片手は地を指さして「天上天下唯我独尊」と宣言されたのは有名な話です。  
いろいろな解釈がなされるこの逸話ですが、私は天上天下唯我独尊という言葉、マーヤ様の耳には我が子の元気に泣く声がそう聞こえたのだと理解しています。長らく待ち望んだ我が子の声、言下に尽くせぬ感動と喜びを仏母マーヤ様は感じたに相違ありません。
 さて、マーヤ様がブッダを産んだ際に手にした無憂樹という植物、現在でもインドにおいては街路樹などでよく見掛けるもので、そう珍しい花ではありません。実は初期の経典では無憂樹の下で産まれたのでは無く、「沙羅樹」の下でとなっているようです。沙羅樹と言えば、お釈迦様の涅槃を象徴する樹木ですが、これを「憂いが無い」という意味の無憂樹に変更したのは、お産の為に実家へと帰るマーヤ様の喜々たる心境を表しているのかもしれません。また一説にはマーヤ様の安産を表現しているとも…。


東園寺住職 千坂成也 合掌


 
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