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法螺貝 住職の法話

平成二十八年十二月発行

「時節因縁(じせついんねん)」

 12月8日は成道会。お釈迦様がお悟りを開いた日だと日本では信じられています。インド、ネパール国境付近を治めていた釈迦族の王子として誕生したお釈迦様はゴータマ・シッダルッダと名付けられ、物質的には何不自由無く育てられました。しかし、お釈迦様は生後7日目にして母を喪くし、母マーヤ様の姉妹であるマハー・プラジャパティに大切に育てられたものの、実の母がいない悲しみはいつしかお釈迦様を繊細で洞察深く、それだけに些細なことでも大きな苦悩を抱く青年へと成長させたのです。

 お釈迦様の悩みの根本は生死のこと。いつか訪れる死のことを考えると何も楽しみは無く、日々が空虚なものに感ぜられたようです。お釈迦様は結婚をされ子宝にも恵まれましたが、悩みは尽きること無く、ついに29歳のときに城を出て、修行者となられました。それから6年間、お釈迦様は様々な瞑想や苦行を行います。しかし悟りの境地を得ることは出来ません。その上に、自らを奮い立たせて臨んだ、呼吸を止めるという究極の苦行の為に、お釈迦様は仮死状態まで陥ってしまいました。朦朧たる意識の中でお釈迦様を甦らせたのは、亡くなった母マーヤ様の悲嘆の声でした。

「私はあなたをあんなに立派に産んだのに!苦行などで命を落として!」

 城を捨てすべての俗縁を断ち切って修行の道を邁進されたお釈迦様を救ったのが亡き母の声だったところに人生の機微を感じます。

 お釈迦様が悟るまでの物語をつぶさに見ると、マーヤ様との逸話のみならず、本当にたくさんの方々に支えられ、不思議な因縁に恵まれて、お釈迦様の修行が成就したことがわかります。

 人が目標に向かって進むとき、自分の力だけではどうしようもない壁に当たることがあります。これを克服するのはまさにチャンスに恵まれることと良い縁の後押し、つまり時節因縁に恵まれねばなりません。そしてこの時節因縁の後押しを得る為には、不断の努力が必要なのだと思います。

 
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