平成二十九年四月発行
「天上天下唯我独尊〜母親の感動」
四月八日は花祭り、お釈迦様がお生まれになった日であると日本の仏教では信じられています。花祭りの正式名称は灌仏会(かんぶつえ)や降誕会(ごうたんえ)と呼ばれ、誕生仏に甘茶を注ぎ、その誕生を祝うお勤めを致します。
お釈迦様が誕生した姿を模した誕生仏は片手で天を指差し、もう一方の手で地を指差しています。お釈迦様は生まれてすぐに東西南北上下にそれぞれ七歩進まれ、前述のような姿勢を為して「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)」と宣言されたというのです。
生まれたての赤子がこのような意味深げな言葉を話すことは無かったでしょうが、描写される動作にはそれぞれお釈迦様の生涯を示唆する意味があるのです。例えばあらゆる方角に七歩進んだということには、お釈迦様が迷いの世界である六道輪廻を超越するであろうということを表し、「天上天下唯我独尊」という語句の後にはお釈迦様が修行の後にブッダとなられて、二度と輪廻しないという意味の言葉が続き、やはりお釈迦様が将来必ず成道するということを示しています。
一つの宗教の開祖だけにお釈迦様の誕生は神話の如き仰々しいものですが、お釈迦様の母マーヤ様の心境を察すれば、この誇大な表現に遜色無い感動と喜びを胸に抱き、吾が子に接したのでは無いかと思うのです。
否、マーヤ様だけではありません。残念ながら子供を産んだことが無いので不確かではありますが、十月十日子供の胎内に宿し、出産の苦しみを経て、子供を抱く母親の心境はまさに「天にも地にもこの子のみ尊し!」となるのでしょう。お釈迦様誕生にまつわる宗教的な表現は吾が子に対面した母親の歓喜を表しているのです。