令和元年七月発行
「我、失なえば、他、得る。」
瑞巌寺中興開山雲居禅師は行脚の際、お付きの弟子を遥か遠く後方に従わせ、籠にも乗らず旅をすることが多かったようです。藩主の帰依を受ける高僧でありながら、その姿は一介の修行僧の如くであったと伝えられます。
五十六歳の頃、藩主の命により江戸に向かった雲居さん、あまりの暑さに着ている法衣や着物を道端に捨てて歩いていたそうです。お付きの僧侶はお師匠様の大切なお衣!と思いこれを拾って大切に抱えておりました。
それを見つけた雲居さんは弟子に向かって「私が物を失なえば、他の人がこれを得る。誠に結構じゃないか!君は苦労して法衣を抱えているが、真実の世界、悟りの世界には自も他も無いのだよ!」と言い放ちます。
何円、何銭という利益を出す為に筆舌に尽くし難い努力をしている方々が多い現代人からみたら、「なんと呑気な!」という逸話ではありますが、浮世離れした昔の禅僧の姿に接すると何かしら大らかな気持ちになるのは私だけでしょうか?