令和元年十一月発行
「報恩謝徳」
東園寺の本山である妙心寺を建立し、開基として仰がれる花園法皇は、学問に優れ、歴代天皇の中で最も深く仏教を理解した方としても知られています。花園法皇はのちに甥にあたる光厳天皇の学問の指南役となります。この際に記されたのが『誡太子書(かいたいしのしょ)』です。先日、譲位された上皇陛下は若き日にこの書をご研究されたと伺っています。一般にはあまり知られていないかもしれませんがとても大切な文章です。
「太子は宮中で大きくなり、人民の労苦を知らない。豪奢な衣服を着て、その衣服を縫ってくれた者の労を知らず、贅沢な食事に飽きて、農家の人々の艱難を見ることも無い。未だ国に対し功績を上げてもいないのに古人の残した功業によって王侯の上に立つことを、自ら愧じねばならない」このように『誡太子書』には厳しい訓戒が続きます。私は中世の時代にこのような価値観を法皇様が有しておられたことに驚き、さらには本当に有り難く感じます。
現代社会はすべての物事を金銭に換算して考える癖があるようです。しかし、私はお金では買えない先祖の恩恵や天然自然の恵みによって生かされていることを忘れてはいけません。法皇様のおっしゃる通りですね。また、これらのおかげさまに気付くことは幸せの第一歩だと思います。