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法螺貝 住職の法話

平成十九年十二月発行

『 成道会』

十二月八日は成道会。お釈迦様がお悟りになった日であると信じられています。しかし、お釈迦様のお悟りの日は、東南アジアと日本等では大きく異なっています。お釈迦様の教えに忠実な東南アジアでは五月の満月の日をお悟りの日と定めています。また東南アジアではお生まれになった日も、お悟りの日も、お亡くなりになった日もすべて同じ日であったと信じられています。多くの経典ではお釈迦様のお悟りをインド暦の二月にあたるヴァイシャーカの満月の日、或いは同じくヴァイシャーカの八日を悟りの日やご命日にあてています。実は中国や日本でもこれらの経典にしたがってお悟りの日を十二月八日と定めているのです。

 中国の暦は太陰太陽暦が採用されていました。これは月の満ち欠けに要する約二十九日を基本とし、季節のずれを解消するために三年に一度閏月を入れるものですが、この太陰太陽暦の一年の始まりは今日の冬至、即ち十一月にあたり、十二月は太陰太陽暦の二月にあたるためインド暦二月を踏襲して十二月八日を悟りの日としたのです。ちなみに二月十五日がお釈迦様の命日となったのは太陽暦の二月をインド暦の二月に充当したものであります。

 悟りの日といえば仏教でもっとも大切な日であります。これがこんないい加減な算定により十二月八日に定められたことには驚くばかりですが、私は経典を翻訳した人がインドと中国の暦が違うことを知らない筈は無いと思っています。成道会や涅槃会を定めた人はなかなか粋な人だったのではないでしょうか。私達のような四季のある国で生活する民族にとって、誕生も成道も涅槃も同じ日という位、味気ないものはありません。生命の息吹溢れる春に誕生し、実りの秋を経て心身ともに充実する十二月に悟りを完成させ、動植物の営みが止まってしまったかのような寂しい二月に命の終焉を迎えるというのは、なかなかよく出来ているではありませんか。

 お釈迦様は様々な苦行や坐禅を経て悟りを完成させます。その労苦は筆舌に尽くしがたいものでありますが、その労苦から生まれた仏教というものは、その厳しい修行に相反して、非常に寛容な教えであると言われます。世界宗教と呼ばれるもののなかで、布教の為の戦争をおこしていないのは唯一仏教だけであると言われます。お悟りという大切な日でさえも、国民性に準じて変更可能なところにも、その柔軟性と寛容性の一端であります。

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