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法螺貝 住職の法話

平成二十一年三月発行

『ほめずにのばす』

昨日(三月八日)、京都大本山妙心寺塔頭(たっちゅう)麟祥院(りんしょういん)先住職水野泰嶺和尚の入祖堂と七回忌の法要が、妙心寺の法堂で営まれました。入祖堂とは本山の祖堂に位牌を安置する法要です。麟祥院の水野泰嶺和尚は妙心寺山内に伝わる声明(お経の節)の先生でした。私も学生時代より師について声明を学びました。また、丁度私が修行道場を出た頃から、毎年宮城福島教区の研修会の講師もお勤めになられましたので、十五年以上にわたり師のご指導を仰いだわけです。師の指導方法は「ほめて伸ばす。」という現代的な指導方法とはまるで逆。時に辛辣に学人の発声や節を注意されるのです。「私は某寺で白人の修行僧に声明を教えているのだが、最近これが中々上手になっている。外国人でも出来るのだから、訛りというハンディキャップのある東北人の君達にも、努力をすれば声明が習得出来るはずだ・・・。」という具合の「毒」を端々に織り交ぜながらの指導であります。声明の練習はとにかく、先生の節をよく聞き、これを真似ることです。自分の癖を殺して、とにかく真似るのです。野村万斎さんが狂言の練習は自我を殺して師匠の芸を真似ることから始める。自分を殺し尽したところに、本当の個性が生まれてくるということを仰っていますが、声明の稽古にも通じるものがあります。

 水野先生が遷化される前年の研修会で初めて小衲は先生にお褒めの言葉を頂きました。「なかなか良くなって来ました。十数年来てやっと一人だが出来る人が育ちました。」翌年先生は突然の遷化。昨日の法要では先生の毒語を懐かしみご指導頂いたご恩に感謝し香を献じて参りました。
 昨今は褒めて伸ばすというのが、世の教育の主流だそうです。修行僧達も斯様な学校教育を受けて専門道場にやってくるのですから、指導する老師方の苦労は想像するに余り有ります。しかし、自分の我や癖を殺したところに本当の個性が生じるという伝統芸能にも通じる指導方法というものが無くては本物が育たないのでは・・・。と感じる小衲は絶滅危惧種の部類でしょうか。

 
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東園寺 中興開山

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