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法螺貝 住職の法話

平成二十一年四月発行

『天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)』

モール状の布で装飾された古いアルバム。紙の台紙にテープで貼られたセピア色の写真。でっぷりと肥えた赤ん坊の写真の傍らには「天上天下唯我独尊」の走り書き!確かに写真を見ると、片手は上を指差し、片手は下を指差しています。勿論、ベビーベットに寝た状態ですが。何を隠そう、この赤ん坊。四十二年前の小衲であります。この写真を見ると、随分可愛がって貰ったのだという事を実感します。また、偶然にも天地を指差したわが子の写真を撮る先住の嬉々とした表情が、目に浮かびます。(もしかしたら、無理やり天上天下唯我独尊状態にしたのかもしれませんが。)

お釈迦様は母親であるマーヤ夫人(ぶにん)が、花盛りの無憂華の枝を折ろうしたとき、夫人の右脇から誕生したと伝えてられます。お釈迦様はお生まれになると、東西南北に七歩進まれ、片手は天を指差し、片手は地を指差して、「天上天下唯我独尊」と仰いました。サンスクリット語の経典の記述によれば、今生で必ず仏となり、再び輪廻しないことを宣言されたのだと言います。仏教に限らず、聖者の誕生には神秘的な脚色が付き物です。このお釈迦様の誕生の逸話も、経典の作者が聖者の誕生を仰々しく表現したものなのでしょう。しかし、マーヤさんの立場に立って、お釈迦様の誕生を振り返ってみれば、実に母親たるマーヤさんの耳には、「おぎゃあおぎゃあ」という元気な声が獅子の声の如く頼もしく感じたでしょうし、元気にバタつかせる手足の姿も、他の子供とは違う力強さを感じたに違いありません。わが子が特別であるのは古今東西、変わらぬ真実!私達一人一人も唯我独尊で誕生しているのです。

 
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