平成二十四年十一月発行
『季節のめぐみ 白隠禅師着賛「菊画賛」に寄せて』
「今よりはまた咲く花もなきものをいたくなおきそ菊の上の露」
この歌は『新古今集』にみえる権中納言定頼の作で、「菊が終わると、春まで咲く花は無いのだから、露よ菊花の上におるのは止めてくれ。」の意。
昔は菊が終わると、路地の草花は無くなったのでしょう。露がその菊の色を衰えさせぬようという願いがこめられています。
和歌に対する知識もなければ、詩情という繊細な感情を有していない小衲ではありますが、いにしえの日本人が季節を愛で、その感動を記録した歌の世界には心より尊崇します。
現代は技術や輸送手段の進歩によって、世には四季を通じて様々な花が有り、食物があります。将軍や大名でも為し得なかった贅沢を私達はさせて頂いています。
季節感が無くなったと言ってこれを嘆く風潮もありますが、四季を通じで物を供給出来る事を開発しこれを進歩させている研究者や事業従事者の方々が技術を発揮し、季節外れにチャレンジするのには、これらの方々に季節感があるからに他なりません。
季節に応じた露地物の花や食べ物も結構、様々な技術を駆使して作られた季節外れの花や食べ物も大いに結構。何れにせよ太古より続く天然自然の産物ということに変わりはありません。すべてが珍しいもの。みんなおかげさまなのです。