平成十五年十月 発行
『 功徳天(くどくてん)と黒闇女(こくあんじょ) 』
ある家に功徳天という女性がやってきました。功徳天は見目麗しく端正で、すばらしい宝石で身を飾っています。女性は言います。「私はどんな家でも、金銀真珠サンゴ琥珀瑪瑙などの宝石で家を満たしてご覧にいれますわ。」主人は喜びます。何たる幸運!さっそく女性を家に招き入れ、お香をたき、座を設えて接待します。
ところがそこにはもう一人女性が立っているのです。主人がその女性を見ると、まったくもって先程の功徳天とは正反対。その姿は醜悪。衣裳は疲れ果て、汚れて垢がしみ、肌はシワシワであります。主人が名を尋ねると女性は答えます。「私の名は黒闇女。どこの家に行っても、その家の財産を無くしてご覧にいれますわ。」主人は慌ててその女性に罵声をあびせ、門前から追い払おうとします。しかし黒闇女は言います。「そうおっしゃいますが、ご主人様!先ほどの功徳女と私は姉妹ですの。常に一緒に行動いたしていますのよ!ですから私を追い出すのでしたら同時に姉も追い出すことになりますのよ!」
このお話は大般涅槃経聖行品というお経に見える挿話です。大般涅槃経が成立して一八〇〇年程は経過していると思われますが、「おいしい話には気をつけろ!」は古今東西を問わぬ教訓であるようです。達磨大師はこの挿話を引用して人間は縁に随い欲張ることなく生きることが必要であると説いています。